2020/09/19

曇り/1013hPa/体調:耳鳴りが多い

オタク長文の時間だ!!!!!!!

劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン

完結。最初に言っておくと、アニメ映画としてはすごく良いです。

作画は明らかに最高の仕事、光の表現が特に素晴らしく、故にヴァイオレットの目からハイライトが消えた時怖すぎてビビります。あと衣の表現もすごかったな……。音響もよくて、とくにヴァイオレットの義手がところどころで立てる金属音(観客に与える印象を計算して、必要なときだけ聞こえると言う感じなんですよね)が絶妙。美術周り、衣装デザインもよかった。今回ヴァイオレットのスカートがコルセットスカートになっていて、これが大人っぽい印象なんですよ。舞台挨拶で石川由依さんが髪型とリボン、コルセットスカートまで真似て登壇されていたのもよかったですね。キャストは今回のみ登場の人物も含めて「これ以上は望めない好演」と言っていいんじゃないかしら。とくに水橋かおりさん。

映像や音楽に関しては最高の仕事であった1000億満点以外の評価が出来ないので、この映画について感想を書こうとすると「その上で話はどうだったんだ?」ってなると思うんですよね。
どこに満足していないのかと言うと「どうして完全には好きとは言い切れないのか」を自分の中で掘り下げていく作業になります。よってこれ以降はけっこうネタバレも、そこそこの悪口も書きます。

まず脚本の出来がどうかなって言うと、良さで言うなら「良い! さすが吉田玲子」にしかならないかなと言う気もするんですよね。
何と何を比較できるようにしてあってとか、ここで話が転換されてーみたいな事を考えて見るとお見事なんですよ。ただまあ吉田さんの脚本、色んな作品で触れましたけど「僕にとっては毎回好きな話だとは限らないタイプの人」なんです。リズと若おかみとガルパン最終章と聲の形とたまこラブストーリーが全部この人だぞ! 実はこれ書いている段階で、今日見てきた内容も「完全には好きとは言い切れない話だった」と言う気持ちが拭えてないんですよね。

僕は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と言うアニメ作品(小説の事は置いておいて)の本筋はヴァイオレットと言う人物を中心にした群像劇であり、ヴァイオレット本人の変化を描いた話だと思っています。それにはヴァイオレットの職業である『自動手記人形』と言う要素が大きな役割を果たしています。
また『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は「職業人として成功する女性を主役とした物語」なので、必然として世界の中での女性の立場や価値観にも触れている作品で、小説だとヴァイオレットが生涯に渡って活躍しているらしい記述があるんですよね(設定段階で意図的にフェミニズムを意識して作った作品という意味ではなくね。元少女兵士の女の子が社会人として活躍すると言う話をするのだから、話を真面目に考えるとどうやってもそうなる)。京都アニメーションさんはスタッフに女性が多い(虫プロダクションからの伝統)と言うし、アニメでもここを意識している様子は感じられます。

自動手記人形は設定上その大半が女性ですし(小説には男性の自動手記人形だけを集めた企業を作ろうと言う話も出てきまして、これもまた性差を意識している記述ですね)、アイリスは自立して生きようとするのを故郷に挫かれそうになるエピソードもある、また姫の結婚にあたっても女性の意志が尊重されるエピソードであったりもします。そもそもこの世界においてタイプライターと発明が女性の職業人のために作られたものであるのもあわせて考えると、ここには明確な意図があると思っていいんじゃないかなと思いますね。
あと外伝も顕著かな。あれは「貴族と結婚するための作法を学ぶ学校に、自立した存在であるヴァイオレットが現れ、男性のように扱われる」だし。

この前提があって、今日の劇場版はいきなり「ヴァイオレット・エヴァーガーデンは18歳で引退した」と言う話が出てきて、かなり「えっ?」となったんですよね。アニメ版のヴァイオレットは引退する。あんなに必死に自動手記人形やってたのに?! この要素を作品の冒頭に持ってきていると言うことは、脚本構成上でも「ヴァイオレットがなぜ引退するのか?」は大きな意味を持っていると考えて良さそうです。わりと衝撃的だし意外な展開です。

なお小説ではヴァイオレットはほぼ生涯に渡って自動手記人形を続けたらしい記述もあります。意図的に改変している。ヴァイオレットの運命が変わるならその原因は、やはり「少佐」にあると思ってよいでしょう。小説ではかなり序盤から実は生きてるぞと言い始める少佐ですが、アニメではここまで回想シーンのみ。
でもまあその、予告の段階で「ギルベルト・ブーゲンビリア」が堂々とクレジットされている事から察する事が出来たファンはかなり多いと思うのですが、つまりは劇場版は「少佐の帰還」の物語であったわけです! 正直ちょっと、作品世界外の我々も「いまさら!」と思ったし、作中世界では4年が経過しているので作中世界の人たちも「いまさら!」って思ってるよね。

当然のこととしてこの映画は「いまさら出てくるギルバート・ブーゲンビリアを観客が受け入れることが出来るのか」と言うところで評価が割れると思うんですよね。

どうやっても「俺達のヴァイオレットがこんな、いまさら出てきたヤツに……!」ってなるし「はたしていまさら出てきた少佐は、ヴァイオレットの生涯を変えるほどの人物なのか?」って視点出てきちゃうでしょ。この視点を観客と共有するホッジンズ社長を始めとした会社のみなさん! とくにホッジンズ社長、ヴァイオレットが10歳から彼女を知っているわけで、完全にお父さんみたいになっているとカトレアにも散々からかわれている。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はロマンス作品であり、そしてロマンスとしてはギルベルトの再来は必然なんですよ。でもポジション的にわりと負けそうなポジションだったりしません? 自立した女性主人公の少女時代の親代わり、死んだはずの人物、四年間行方不明だぞ! 主人公の中で生きていた時間と死んでいた時間、同じになってる、ラスボスとして現れて負けるタイプのヒロインじゃない?! きっぱりと言ってしまえば、小説ではわりと早く存命が判明するの、負けヒロインムードにしないためでもあったでしょう。

このキャラで勝つ話を任された浪川大輔、やり遂げたし、舞台挨拶でもパンフでも「他人の話を引き出して作品を掘り深める」を見事にこなしていて「この人は演技とか会話以前に、観客の視点で物語を解釈して掘り下げるとかそう言うスキルが桁違いなのだな」と思いました。

僕は「ギルベルト・ブーゲンビリアは一度くらい殴られたほうがいい」と思っていたので、そういうモヤッとはだいぶあったんですよ。ただ浪川大輔さんのおかげで消化できたんで、どうもなんか突き刺さっているのそこではなさそう。

そして……結局なんでヴァイオレットが自動手記人形をやめたのかについては、そこまで説明があったわけでもなく、納得できていない。と言う視点が自分の中にあった事に気がついたんですよ。
このシリーズは「男たちが戦争で疲弊しきった時代、現れた職業人女性たち、その花形であった人物ヴァイオレット・エヴァーガーデンの物語」なんですから、ここに納得できないと結末が飲み込めなくないですか。ロマンスの主人公ヴァイオレット・エヴァーガーデンの話は終わったんですよ。でも自動手記人形ヴァイオレット・エヴァーガーデンの話、まだ終わっていないのでは? だから小説ではずっと自動手記人形を続ける筋だったんじゃないんですか?

伏線はあったんですよ。電話が台頭してきて、郵便の必要性が下がっている。電話によって救われた人間も描いた。ヴァイオレット本人もリアルタイムな通信手段によって救われた描写もある。郵便事業は縮小される未来が確定している。言葉に出して伝えないと伝わらない。やがては自動手記人形と言う職業は廃れる。それは戦争が終わって人々が文化的余裕を持ったことからでもある。しかしその事によって自動手記人形、ヴァイオレットの価値が傷つくわけでもない。言われることをそのまま代筆する代筆業と言う仕事は途絶えても、口述筆記(そもそもタイプライターの誕生の理由がここにある世界観ですよね)だとかの重要性は残りますし、ヴァイオレットの様なスペシャリストを必要とする文化は多く残るように思えます。TVシリーズではその印象はかなり強調されていたと感じられます。シリーズを振り返ると語られていたのは「手紙でしか伝えられない想いもある」のはず。

なのにこう……はっきりと言えばほぼほぼ「寿引退」みたいな感じに18歳で仕事をやめて、ギルベルトの側に生きる道を選ぶ必要性あったかなあ……ギルベルトがヴァイオレットにあわせても良かったくらいに見えたんですよね。ここの納得力というか説得力と言うか。ヴァイオレットがギルベルトのために「現在の自分のもつ様々なもの」を置いていく。それを僕は納得できなかったんですよ。なんで? 時代が変わる中、手紙の素晴らしさを残す道の花形に彼女がいても良かったはずですよね。引退後もヴァイオレットの存在が手紙の良さを伝えていた(もっと言えば、結局ヴァイオレットは郵便に関わっていた)事を考えると、むしろヴァイオレットの早期引退は物語のノイズとも思える。しかし脚本構築の巧みさを考えると、これはやはり意図のはずでってなる。それだけヴァイオレットにとって「あいしてる」が重かったと言うことだけでは、説明がつかない気がするんですよね。あの世界はきっと、まだヴァイオレットを必要としていた。

コメント

  1. 水渚 翔樹 より:

    確かにヴァイオレットは幸せな人生を歩めた。
    しかし、『世界』にとってそれは多大なる損失でもあった。

    そう考えると、この物語の結末はメリーバッドエンドと捉える事もできますね。
    (実はこういう用語がある事、初めて知りました)

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