最初ライブレポートのつもりで書き始めたのですが、書けば書くほど主観が強くなってきて「まあ趣味だから……」で主観レポートに切り替えたのでオタク長文です! 途中で書き足しまくったんでムラがあります! 当初の予定では3000字でしたが3倍あります! 開き直ってスクショも予定の5倍くらいにしました! もはやライブレポートとは呼べません!
前説
名取さなは自分のことをアイドルとは呼ばない。アイドルとはもっとキラキラした人たちだと、"せんせえ"(名取さなのファンネームは"せんせえ"。フランクに呼びかける時は"オタク"である)達に強く言い聞かせている。だとすれば、名取さなとせんせえたちの関係は、アイドルのファンではないことになる。たしかにアイドルとファンがあんなに仲良く喧嘩するはずもない。
そんな彼女が「音楽活動を増やしたい」と言い出した時には、驚いたものだった。樋口楓、星街すいせいと言った音楽活動を得意とするVtuberにラジオ番組内でそう相談を持ちかけていたのだ。
今まで名取さなは何度も誕生日ソロイベントを主催している。それらはトークやストーリーが"主"であり、音楽を中心に据えることはなかった。しかしそれでもアイドルのようなダンスを交えた見事なソロ歌唱を行い、ファン内外に好評を博している。私もこの映像を人に見せたことがあるが、その感想は「アイドルマスターの作中映像かと思った」というものであった。客観的には、名取さなはアイドルらしく見え、アイドルらしく歌うVtuberであるようだ――しかし彼女はアイドルではなく、1stライブは『生バンドを編成した歌が中心の音楽ライブ』であるという。テクノ楽曲を主体とする普段のディスコグラフィーから考えれば異例と言っていいだろう。
『サナトリック・ウェーブ』と命名されたこのライブがどんなものになるのか。アイドルではない名取さなのアーティスト活動はどんなものなのか。それは"せんせえ"たち、名取さなのオタクたちにとっても未知のものだ。
ライブに備えて名取さなは精力的に音楽活動を行った。本人がとくに挙げるのはカバー(歌ってみた)が3曲に加えて、3ヶ月連続リリースされたロックナンバー3曲である。とくに話題になったのは星野源のカバーとして発表された『地獄でなぜ悪い Covered by 名取さな』だろう。
星野源のファンたちからも好評で、普段Vtuberの話を一切しない層の間でも話題になっていた。とくにその表現力を驚く声は多く、名取さなに「歌手としての実力」が備わっていることを広い層に印象付けたと言える。
また話題になったと言えば楽曲『オヒトリサマ』にも触れたい。「なれ合いは厳しく罰せられる」さなちゃんねるの風土をモチーフとしたこの曲を聞いて「こんなハードな曲調のロックも歌えるのか」と驚いたものだった。
「今の名取が全力でライブをしたらどうなるのか、こんなにたくさんの準備をしてどんなライブがするのか」その予想はすっかり困難なものになってしまっていた。
昼公演
Vtuberのライブは通常は巨大なスクリーンを用いて行われる。現実の会場に、歌い踊る彼女たちを映像として映し出すことで、現実に出張してもらう形式だ。名取さなの過去のイベントも映画館のスクリーンを利用しているため、その例に漏れない。またVtuberと生バンドという形式でライブを行った前例としては、にじさんじ樋口楓による「Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO"」が挙げられるだろう。
会場・EX THEATER ROPPONGIには5人のバンドメンバーの頭上、通常よりも高い印象を受ける位置に巨大なスクリーンが設置されていた。透過LEDも設置されている様子だ(透過LEDについては以下の記事を参照にしていただきたい。https://www.moguravr.com/double-report/ )。照明も多く見受けられ、立体的なステージになることを予感させられた。
真っ暗な会場。スクリーンの中……いや、舞台の上に小柄な人影が現れ、客に背を向けたまま中央に位置した。もちろん、本日の主役・名取さなだ。そして名取さな1stLIVE『サナトリック・ウェーブ』昼公演は意外な楽曲で幕を開けた。

カバー曲『惑星ループ』だ!
10万人記念で公開された始めてのカバー動画で名取さなが歌ったのが『惑星ループ』だ。イラスト、ミックスや動画制作をすべて自分で手掛けており、名取さなのセンスを感じ取れる動画となっている。ファンにとっては「名取さなの音楽活動の始まり」というイメージもある。それを昼夜通しての最初の曲に据えた。電波塔をメインイメージとした『サナトリック・ウェーブ』の印象にもふさわしい曲だろう。

オリジナル曲『ファンタスティック・エボリューション』、ライブでのコールを意識して制作されている『PINK,ALL PINK!』が続く。明るく楽しい曲が中心となるように意識してセットリストが組まれているのだろうか。名取さな入門者がこの場にいたとしても、いっしょに盛り上がれるだろう。


痛いことなんてひとつもなくて
キミとならどんなことだって できちゃいそうだよ
楽しそうに歌われる『PINK,ALL PINK!』のこの歌詞こそ、今のこの場を象徴するものではないだろうか。
ここまでの道のり、このライブのための準備、そのなにもかもが楽しかった。『惑星ループ』をアップロードしたその日から、あるいはその前から名取さなが歩き続けてきたであろう道だ。だからこそ、このライブだって楽しくできてしまう、その確信が全世界に向かって歌われている。
得意(?)のダジャレが満載の『だじゃれくりえいしょん』ではステージからレーザーを発射する驚きの演出を行う。ロックとダンスミュージックを繋いだ先駆者であるケミカルブラザーズのパロディであり、この演出を実現するためにステージに透過LEDを導入したのだと言う。続いて那須どうぶつ王国とコラボしたMVが話題となった『アニマルま~る』をダンスを交えながら披露。ステージの可能性をアピールし、より観客を巻き込む形で、ライブは進行する。

さらにオリジナル楽曲『ごほうびトキメキモード』からブルーアーカイブ・ゲーム開発部のテーマソング『わたしたちのクエスト』へ。いずれもキュートさがこれでもかと強調された楽曲だ。
これらの楽曲のテーマは、ダジャレ、動物、グルメ、ブルアカ。いずれも配信でいつも親しんでいる名取さなを象徴するカルチャーだ。それにも関わらず、ライブが進むほどに新鮮な世界が広がっていく感覚が存在した。いずれのアレンジも、生バンドのアレンジが行われいるためだ。今まで何度も聞いた楽曲たちが、今までは知らなかった顔を出してくる。

『わたしたちのクエスト』ではペンライトのカラーもゲーム開発部を意識したものになっていて、名取さなだけではなく、彼女を取り巻く世界観そのものを愛そうとする"せんせえ"たちのスタンスが強く伺える光景だった。
そして続いて披露されたのは新曲『ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ』である。

マイナスな感情、強い劣等感を感じながらも、「なにを信じているのか」「誰と歩き続けるのか」をリリックに歌い上げる愛の歌だ。口にするには照れくさいテーマである"愛"。名取さなの活動において、歌は時として言葉以上のものを伝える役割を持つ。いつも活動で感じているもの、信じているものを、名取さなと"せんせえ"たちは歌を通して共有する。

続くロックゾーンではすっかり「名取さなのかっこいい曲」として定着した『オヒトリサマ』から始まり『アンハッピーリフレイン』のカバー(なんと原曲キー!)、さらにはヨルシカ『八月、某、月明かり』を続ける。歌い終わりと同時に切れた息が聞こえるほどに、力の入った絶唱だった。17才として活動を続ける名取さなの歌う「人生、二十七で死ねるならロックンロールは僕を救った」というフレーズに、思わずにやりとした観客も多かったのではないだろうか。


さらにはもう一つの新曲として用意されていた『ソラの果てまで』を披露した。この曲については夜公演で触れる。
昼公演はいよいよ終盤へ。2曲続いての撮影ゾーンへと続く。

得意の高音を存分に存分に活かしたオリジナル曲『パラレルサーチライト』。これだけの高音を歌いながらも、歌詞が一言一言はっきりと聞き取れるのは完全に歌手としての個性だろう。「楽しいの先陣を切って」という歌詞は、"せんせえ"たちに愛されている。名取さなが新たなことにチャレンジする、その時の合言葉のように使われている印象だ。"手を取っていざ行こう"――いよいよ昼の部の最終曲が歌われる。3ヶ月連続リリースで発表されたオリジナル曲『足跡』だ。

その曲調にエンディングを強く予感されるも――まったく、ほんとうにまったく間髪入れず。曲を終えた、名取さながステージを立ち去った次の瞬間、"せんせえ"たちは叫んだ。
「アンコール! アンコール! アンコール!」「名取! 名取! 名取!」
なんなら、まだステージの端に名取さなが残っているタイミングにはもう叫ばれていたようにも思えた。このままでは終わりたくないと言う強い気持ちの現れだろうか。あまりにも早いアンコールに、白いライブTシャツ姿で慌てて戻ってきた名取さなも、ポニーテールを結ぶヒマもないかと思ったと戯けてみせる。

アンコール1曲目はPVが190万回以上の再生回数を誇る代表曲『モンダイナイトリッパー』だった。ボカロP、sasakure.UKによって制作されたこの曲には、名取さなを取り囲む世界観が細部に渡って歌詞に反映されている。名取さな楽曲の中でも、一番「名取さなの配信を見ている時の気持ち」に近い楽曲ではないか。

昼公演の最終盤に宣言される"限界続行"のシャウト――このまま夜公演の最後まで駆け抜けることを宣言するかのような選曲である。
そしてアンコール2曲目、昼公演本当に本当の最後の曲として選ばれたのは、『いっかい書いてさようなら』だ。発表は2024年バースデーイベント、つまり『サナトリック・ウェーブ』の開催と同日に発表された曲である。キャラクターソングらしさから抜け出しながらも、アーティスト名取さなが表現したいメッセージがはっきりと感じられ、ライブでも歌われることが当然期待されていたナンバーだ。


『いっかい書いてさようなら』では"丁寧なインターネット生活"を掲げる名取さならしい、コミュニケーションを扱っている。相手に気持ちが伝わることを願い、毎日の活動・生活を続ける日々。その延長線にあるあらゆる出来事の幸せを願う歌だ。
今度どっか行きたいよ どっか連れて行くよ
見せたい景色をつくるよ
まさに今、この場にあるのが「あの日、名取さなが歌った、見せたい景色」なのだ。

そして、まさにこの歌詞に合わせ"せんせえ"たちが飛び上がると同時に、銀テープが発射された。歓声と拍手は長く、いつまでも鳴り止まなかった。
夜公演
この時点ですでに「このライブは成功だ」と言うのが"せんせえ"たちの見方となっていたように思える。Twitter(旧X)では「#名取さな1stLIVE」が日本トレンド1位を記録したのだ。夜公演もアナウンスでそのことにも触れてから始まった。
オープニング曲は『ファンタスティック・エボリューション』。これは事前の予想でも「一曲目ではないか」と言われていた楽曲で、昼の部でも二曲目に歌われていた。

今までと同じじゃ足りない 足りない
新しくあれ
名取さなとそのスタッフたちはいつも「最新」を更新しようという気概に溢れたチームだ。新しいことを行うことに、常に貪欲であると言っていい。『ファンタスティック・レボリューション』はそのチャレンジスピリッツを歌詞に託したようなナンバーである。
このライブでもおそらくはVtuberの個人勢としては挑戦的であろう試みがいくつも行われていた。その一つが直前に導入が決定したというARカメラによる配信だろう。会場のステージの光を浴びた名取さなをリアルタイムで横から映すカメラの存在は、インターネット配信で見るせんせえたちに、名取さなの実在を強く訴えかけていた。

また、まるで当然のように行われているが、3Dスタジオ内にいるであろうVtuberの歌唱と生バンドの演奏がずれていない事自体、驚異的な技術の産物である。まして会場とインターネット配信の観客たちの反応もほぼ完璧にリアルタイムで把握されている。

エボリューション。より良い自分でありたいという柔らかい想いを、名取さなが解き放っていく。続いたのは昼公演でも喝采を浴びた『惑星ループ』だ。
しかしそこから様子が急変した。カバー曲『ライアーダンサー』へと続いたのだ。驚いたことにもう既にセットリストが違う。先程までの明るい可愛らしい歌声から、一気に力強さに重点をおいたロックな歌いこなしに変貌している。夜公演の観客たちへさっそく持ち味の表現力の幅を見せつける形だ。

ここでは深く触れないが、名取さなの活動において"嘘"は重要なキーワードでもある。もしかすれば夜公演は、昼公演と比較し、長く名取さなを追っている"せんせえ"を意識しているのだろうか。
さらに友人でもあるVシンガーたちのナンバーである『私論理』『夜を待つよ』が続く。昼のセットリストにはなかった、しっとりとした空気が場に伝わっていくのがわかる。長くカバー曲を歌い続けること事態が昼公演になかった。過去のイベントやカバー動画で、名取さなのカバー表現は高く評価されている。自分の曲の解釈を歌に乗せるのがうまく、しばしばオリジナル曲と勘違いされるほどだ。これらの楽曲も、原典の模倣ではない、名取さなの解釈を感じさせる歌になっている。

青い光の中、柔らかい歌声が響いてく。一転、始まるのは『オドループ』だ。さなちゃんねるオリジナルキャラクターであるうさちゃんせんせえたちも登場し、ダンスを始める。可愛らしくポップな音楽だが不思議と印象は前二曲と地続きだった。この三曲の共通点はどこか、終わりを予感させる寂しさだろう。ふだん名取さなが感じさせまいとさせる寂寥感が、大音量のバンド音楽によって表に現れているのだ。

MCを挟み、昼よりはやや早く、撮影可能ゾーンが始まった。軽快なトークを交えてスタッフに進行を確認しながら始まるのは彼女の冠ラジオ番組『名取さなの毒にも薬にもならないラジオ』のイメージソング、『弱酸性ラジオブレイク』。ラジオ番組に送られたメールを読み上げる演出の楽しい曲で、名取さな流の『ミュージック・アワー』と言えばわかりやすいだろう。

この曲の最後には名取さな自身のお手紙を読むパートがあるのだが……事件が起きた。
「さなちゃんねる夏祭りでおしりぷり音頭の振付をみんなにレクチャーしたのにコメントがドン引きしていてムカつきました! こうなったら会場の人に踊ってもらうしかない!」
名取がなにを言い出したのか、筆者には咀嚼しれきなかった。会場からやけにはっきりと「やだー!」と言う悲鳴が聞こえた。どんどんどんと、会場に和太鼓の音が鳴り響く。MC中にさりげなく退場していたドラム奏者がお祭りの法被を背負い、和太鼓を叩きながら台車に乗って再入場してきたのだ。MCでやけに進行を気にしていたのは、これの準備だったらしい。名取さなのディスコグラフィーにそびえ立つ違和感・おしりをテーマにした盆踊りとしか説明できない異端児『おしりぷり音頭』である。こんなことが許されていいのだろうか。フロア熱狂、混乱する観客。

Foooooo!! と客席で誰かがが叫んだ。歌詞と同じくらいになにがFoooooo!! なのかさっぱりわからない。……とは言え『おしりぷり音頭』は名取さなのディスコグラフィーを通して、重要なものだ。作詞にも振り付けにも名取さな本人がクレジットされている楽曲は現在他に存在しない。中断されていた『弱酸性ラジオブレイク』にシームレスに戻っても和太鼓はそのまま叩き続けられた。様々なバンドアレンジが行われた1日だが、もっとも印象的なアレンジはこれかもしれない。

直後のMCで、この悪巧みは、名取さな当人ではなくスタッフからの提案であったことが明かされる。ふざけたことにも本気で取り組むのが本当の大人と言わんばかりである。
続くのは昼公園で詳細に触れた『ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ』だ。初披露の楽曲がもたらした静かな空気の中オリジナル楽曲『アマカミサマ』へ続く。筆者が名取さな楽曲に興味を持ったのは、この『アマカミサマ』のPVが切っ掛けであった。
とくべつ好きなわけじゃないなんていうけれど
私たちの絶妙なさじ加減
デトックスに効いてる お薬なんです
名取さなと"せんせえ"のさなちゃんねるにしかない距離。アイドルではない名取さなと、アイドルのファンではない"せんせえ"の距離。絶妙なさじ加減のその関係性に名前はついていないが――この音楽を通して行われているのは、その名前の答え合わせなのかもしれない。
友情愛情劣情? 兄弟げんか そんな感じか
カミサマどうよ ジャッジして

そして、昼に続いて『パラレルサーチライト』が歌われる。非現実とも思えるほどの可能性、それを叶える力が自分にある。その可能性すべてを蔑ろにしたくはない。よく晴れた世界を駆け回る、喜びに満ち溢れた『パラレルサーチライト』から続くのは『面影ワープ』。アニソン好きの印象がある名取さなとしては意外なことに、このライブで歌われたアニソンはこの楽曲のみとなる。夏の思い出を軸とした歌詞は本イベントの空気とマッチしていた。雨の予報もあったが、残暑で陽炎が揺らめくほどに晴れた木曜日だった。
そして『オヒトリサマ』が再び流れる。

"僕らは独りだ"――その歌詞は、裏を返せば名取さなが語りかけるのは"一人一人のせんせえ"だと言うことになるのだろうか? MCでは水を飲むのにあわせて青いサイリウムを振る"せんせえ"もいる。自分の感情や名取の状況に合わせてサイリウムの色を変えることでコミュニケーションを取るのは、コロナ禍で行われたイベント化で生まれたさなちゃんねるの文化だ。たとえ言葉を交わさなくても、確かな一体感がそこにはある。
アンコールを除けば最後の曲として選ばれたのは、やはり昼に続いて披露された『ソラの果てまで』だった。楽曲の作曲は本公演のすべてのバンドアレンジを手掛けた森本練、作詞は名取さな本人となる。まさに『サナトリック・ウェーブ』を象徴する楽曲として生まれ落ちている。それ故に元々はライブタイトルを取って『サナトリック・ウェーブ』とする予定だったが、しかし「名取さなの音楽活動はこのライブが終着点ではない」と言う想いから今の曲名に変更されたのだという。『サナトリック・ウェーブ』のイメージビジュアルの舞台を見つめる背中が採用されたジャケットが実に象徴的だ。
じっと待ち続けていた
鈍色の向こうの空に
自分で届けたい
組み立てた電波塔に
繋ぎたい気持ち全部
森本練作曲のメロディは変拍子が多く、曲に合わせてペンライトを振ることも難しい。巡る四季。困難な道すら楽しんで進める、かけがえのない日々。鈍色の空の向こうに届けたい、胸いっぱいの言葉。色鮮やかな想いの数々を称えた言葉が、難解なメロディにのせられていた。


名取さなが、いたずらっぽく「また作詞したい……」と告げる姿は、すでに次の機会、まだ計画も立てられていない未来のライブを楽しみにしているようにも見えた。
冷めやらぬ興奮の中、アンコールが行われ、白いライブTシャツ姿の名取が戻ってくる。公式グッズのものは黒いTシャツだがデザインは同じ。お揃いと言って笑う。リボンの編み上げはアイドルっぽく、アレンジしたものだという(後日、だからと言ってアイドルというわけではない……と、本人が釘を差していた)。
アンコール一曲目は名取さなの最初のオリジナル曲、『さなのおうた。』だ。月ノ美兎の『Moon!!』と同じ位置にある曲で、ファンメイドの楽曲である。


「言いづらいことも、歌を通してだったらみんなに伝えることができる」。本日のMCで名取さな自身が語った言葉だ。言いづらい言葉を伝えるために彼女自身が歌うことを選んだ歌が『さなのおうた。』で、だからこそ『さなのおうた。』はファンにとってのアンサムであり続けている。

わたしここまでこれたよ 本当にありがとう
歌で伝えられる、感謝の言葉。いつも新しいことに挑戦するたびに「わたしここまでこれたよ」と言う言葉で見えてくる景色は変わっていく。昨日までとは違う意味の、何度も繰り返された歌詞だ。

アンコール2曲目、最後の曲となったのは『足跡』だった。ライブの帰り道、聴いてほしいと思って作られた新曲だ。日常から離れた寄り道の日、軽やかな足取りを思わせるメロディに、素直な気持ちがのせられる。



何度も「終わっちゃう」と大騒ぎしながら、ステージ上を名取さなが飛ぶ。銀テープが飛ぶ美しい景色。今日のすべても、"私"を成す足跡なのだ。

終わってみて、「1stLIVE」として選択されたのが、表面的にも「一人の舞台ではない、生バンドを駆使した音楽ライブ」だったことはもっと真剣に受け止めるべきだったのではないかと、今では感じている。このこと自体が強いメッセージだと受け取れるのではないだろうか。
以前「名取さなは一人だが、名取さなを箱推ししている」という表現を見かけたことがある。名取さなの持つ多面性をよく表現していると思う。名取さなはいわゆる個人勢、事務所や会社に所属せずに活動を続けているVtuberである。その彼女がこのような大きな会場を用意するのはもちろん、それを世界に向けて配信すること、そしてそれを行う楽曲を揃えることは容易ではない。想像を絶する、困難な道を歩んだ先に、このライブがあったはずだ。
このライブにはマウスコンピューター・Zoneエナジー・文化放送そして那須どうぶつ王国と言った「名取さなが縁を結んだ多くの会社・企業による支援」が行われていた。Twitter(旧X)では「名取さなオールスターじゃんか」という声があったのを、筆者は覚えている。個人の生バンドライブの協賛に動物園が関わることなど、早々ある話ではないだろう。
もちろん制作に関わった大人たち(とくにいつもお世話になっているクリエイティブチームTRIBALCON.の存在はあまりにも大きい)もたくさんいる。その大人が悪巧みをして、弱酸性おしりブレイクを繰り出したわけだが……。こうした『名取さなオールスター』を表現する手段として、生バンドを動員した音楽ライブは確かに説得力があった。
そして、注目するべきは、それらの力を借りて、名取さながなにを表現したかったのか。という部分だろう。セットリスト、そしてとくに本公演で初披露された楽曲2つはその手がかりではないかと思う。
今後も名取さなは、自らの可能性を信じ、より困難に満ちたチャレンジを繰り返すだろう。その先に、まだ見えない景色があることを知っているからだ。ソラの果てでまた彼女の挑戦を目にしたい。筆者にとって、このライブは、そのことを強く願うようになるような時間だった。


コメント