2020/11/25

にわか雨/1021hPa/体調:良い

主にホラー、SF、ミステリを書く作家として活躍した小林泰三の訃報。
彗星のようでした。やってきて、二度と忘れられない光景を見せ、そのままどこかに過ぎ去ってしまった。

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僕も全部読んでいるわけではないし、最近の作品に関してはあまりいい読者とは言えないと思うのだが、記憶に残る作品をいくつか紹介させてもらいます、引用はすべてAmazon商品ページからです。
小林泰三さんは「比較的軽く、淡々とした文体」「ロジカルで説明的、情報はどこまでも丁寧に、伝えきるまで書く」と言う特徴がある作家で、それでSFを書くならば背景に存在する緻密さを伝えてくるし、ホラーを書けば他の人間にはない味が発生する、そしてそれらはミステリ的仕掛けでも効果的でした。どのジャンルを書いても僕の「好き」を掠めるので随分作品を読んでいます。以下の紹介は1時間位で書いたんですけど「まだまだ何冊もいけるな」と思ってしまったので、そこでやめてあります。

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも……死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く……。現実なのか妄想なのか。生きているのか死んでいるのか――その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

デビュー作。HUNTER×HUNTERのキメラアント編のネフェルピトーの元ネタでもある。子供たちから「ようぐそうとほうとふ」と呼ばれている『玩具修理者』に死んだ弟の修理を依頼し、その日常のすべてが崩壊してしまう有様を描いた傑作ホラー。コズミックホラーに分類される作品ではあるものの『クトゥルフ神話についてまわる様々な設定』の気配はほとんどなく、ただ「この存在は理解できない存在である」と面が突きつけられれます。まったく理解できない原理で行動する『玩具修理者』はおぞましくもコミカル、小林泰三と言う作家性の象徴みたいなところがありますね。

「浜から来た少女に恋したわたしは、一年後の再会という儚い約束を交わしました。なぜなら浜の一年は、こちらの百年にあたるのですから」──時間進行が異なる世界での哀しい恋を描いた表題作、円筒形世界を旅する少年の成長物語「時計の中のレンズ」ほか、冷徹な論理と奔放な想像力が生みだす驚愕の異世界七景。

僕がSFと言うジャンルを強く意識するようになったきっかけの作品。ぱっと読んだ感じは「なるほど、ホラー作家によるものらしい、幻想的なSF」と言う感じになるかもしれないし、実際そういう評価はあちこちで見かけます。ただこの本が刊行された頃の評ではだいたい「ハードSF」と紹介されています。この作品集に描かれた世界の多くは、その舞台が物理的にどの様な働きをしているのかおそらくはきちんと検証されている(たぶん数式レベルで)と言う特徴があります。『時計の中のレンズ』であれば回転による遠心力が発生し、それによって発生した擬似重力を下と定義した世界。表題作であれば……(ネタバレになるんでかけねえよ!)オタク的には『長門有希の100冊』の1冊でもあります。

妻が習い始めた百舌鳥魔先生の芸術。とにかく前例がなく、言葉では説明できないというそれは、生き物を材料とした異様なものだった。妻が傾倒する異形の“芸術”はさらに過激になってゆき……。表題作ほか、初期の傑作と名高い「兆」も収録。生と死の境界を鮮烈に描き出す極彩色の恐怖7編!

フォロワーの推し。デビュー作と似た傾向、ホラー作家としての小林泰三の強さがはっきり出ている短編集と言う印象。小林泰三はミステリ作家でもあるので「そういう事?!」が多く仕掛けられているので飽きずに読める。どう言う傾向の作者なのかを知るのに一冊だけと言うなら、これか『玩具修理者』と言う感じになると思います。

ジャンボジェット機墜落。真空と磁場と電磁体からなる世界から「影」を追い求める「ガ」。再生する諸星隼人。宗教団体「アルファ・オメガ」--人類が破滅しようとしている…。ハードSFホラー大作。

読め。
ウルトラマンのパスティーシュ小説。これを書いた小林泰三が、後に『ウルトラマンギンガS』の外伝小説『マウンテンピーナッツ』と初代ウルトラマンの後日談を描いた長編連載小説『ウルトラマンF』を公式に書いているのは、趣がある。最初の一冊にはお勧め出来ず、小林泰三に慣れてきた頃に読むのに適していると思います。「人間とまったく違う思考形体の生命体と共生する羽目になった人間」が主人公になるので、これがとにかくヒドい目にあう。描写が痛い。そういうのが苦手な人はまず無理となるかなと思います。
ウルトラマンが実際にいたらこうなるみたいな話、『空想科学読本』あたりで流行ってたのが残っている時代に書かれた印象なんですが、SF作家である小林泰三はシュールで最悪にグロテスク、しかしかっこいいヒーローを綿密な計算に基づいて自作にすることで「SF好きなんでしょ? こういう事しようよ」と示してくれた。なんで僕にとっては「SFを読み始めた時、小林泰三がいてくれて、『アルファオメガ』を書いていてくれてよかった」と言う気持ちが強いです。小説、こんな事をしてもいいジャンルだったんだな……。

探偵である四里川陣と助手の四ッ谷礼子の元を訪ねてきた老婦人。彼女は、息子にかけられた殺人の嫌疑を晴らすため、事件の調査を依頼する。傍若無人な四里川に命じられて礼子は雪山に建つホテルへと調査に赴くが、彼女を待ち受けていたのは、密室から消えた死体の謎だった。カードキーでロックされ、更に衆人環視下に置かれていたという密室状況は、なぜつくられたのか? 遊び心あふれる論理の背後に張り巡らされた伏線が、異様な真相を導き出す、会心の本格ミステリ。

僕はこれ好き。綺麗な本格ミステリとして読ませておいて……と言うタイプの作品。小林泰三が人間に寄せてミステリを書いたらこう言う風になる。人間に寄せすぎていて、あまり破壊力はないなと思うのですが、推理パートからの異常なスピード感とズレのセンスに唸った思い出があります。

栗栖川亜理はここ最近、不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。ある日、ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た後、亜理が大学に行くと、玉子という綽名の博士研究員が校舎の屋上から転落して死亡していた。グリフォンが生牡蠣を喉に詰まらせて窒息死した夢の後には、牡蠣を食べた教授が急死する。夢の世界の死と現実の死は繁がっているらしい。不思議の国で事件を調べる三月兎と帽子屋によって容疑者に名指しされたアリス。亜理は同じ夢を見ているとわかった同学年の井森とともに冤罪を晴らすため真犯人捜しに奔走するが……邪悪なメルヘンが彩る驚愕の本格ミステリ。

小林泰三のここ最近のナンバーワンヒット作で、なんなら「この本だけは本屋で見たことがある」と言う人もかなりいそう。
この小説そのものがかなり好き。特殊状況を扱ったミステリとして十分に面白いことは前提として、童話の持つ不可思議な光景やグロテスクな有様を、ホラー作家としてのテクニックとSF作家としてロジックを用いて解釈・再構築しているんですよね。童話が好きじゃないと書けない。だからこういう作品の存在自体が「好き」と感じれる。
現実と不思議の国を往復し、不思議の国ではグロテスクで滑稽なそれに徹している。一方で作風としてはやはりロジカル。不思議の国では殺人は禁じられていて、しかし不思議の国の住民は動物も植物も喋るので人として扱われる、なので「食べれば殺人にならないんだよ」としてくるのがもう既にロジカル(悪趣味だけど……)
小林泰三の代表長編は『ΑΩ』か『アリス殺し』になると思うのですが、そのどちらも「すでにある作品を、自分のものとして取りこんだ作品」であったのも作家性だなと思います。

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