2021/02/26

雪/1023hPa/体調:午前中はうつ感がとても強かった

でも人間は単純だから寿司食ったら元気が出たよ。

読んだ。

武田綾乃『飛び立つ君の背を見上げる』


特別な事件だったはずの『吹奏楽部』の活動も受験を終えた吹奏楽部副部長・中川夏紀、その「高校生活の最後の時間」を語った『響け! ユーフォニアム』シリーズの外伝となります。

視点人物となるのは「中川夏紀」です。彼女が吹奏楽部を引退し、卒業するまでの最後の高校生活を、傘木希美、鎧塚みぞれ、そして吉川優子らと共にすごす、その様子を語る小説です。もちろん部活も受験も終わっているわけで、そこに大きな事件があるわけではない。その生活をとても鮮やかに、情緒豊かに語ったとても美しい小説でした。

その……なにせ視点人物が中川夏紀なんですよ。作中でも感情の振れ幅が大きいと言うキャラではなく、最初から最後まである種の淡々とした部分を持っていた。

いや、もう、真正面から殴り飛ばされた感がすごい。
当たり前だけど、感情の波が小さいと言うのは感情がないと言う事ではない。淡々としているからと言って、周囲を愛していないわけじゃない。それはわかるわかってるけど。この「高校生活最後のモラトリアム」に対する愛おしさの量が凄すぎて……頻繁に息が詰まるから、一気に読めない。そういう小説でしたね。

中川夏紀はとても感情が豊かだし、とても周囲をよく見ているし。本人に自覚がなくともその心の動きは『愛』に定義されるだろうし、その事を周囲の人間は理解してる。と言うのを、中川夏紀視点で見せつけてくるんですよ。表現が立体的で、様々な感覚、空間での人間の位置、そうした物を通じて「どんな世界に彼女がいるのか?」を徹底的に表現し続ける。抜群に小説がうまいし、うまいだけで書ける話じゃない。人間関係に対してのイメージングが深すぎる。

武田綾乃さんはユーフォシリーズにおいて、キャラは基本的に「二人でワンセットとして設計している」らしく(例えば運動が得意で演奏が下手なキャラの隣には、それほど運動は出来ないけど演奏はとても上手みたいな「セット」を作り続けると言う話ですね)、中川夏紀はわりとその「煽り」を受けているキャラクターと言う印象があるんですよ。

なにせユーフォニアムパートだけで考えるだけでも『田中あすか』『黄前久美子』のどちらかとセットですし。パーフェクトに見える先輩と主人公との対比なんで「不完全さ」が徹底して求められるキャラですよ。なのに彼女はいつも久美子の味方をしてくれたヒーローのような印象がある。でもはっきりと言えば、『活躍できる位置にいるキャラクターとして設計されていない』んですよね……。
その人物を視点人物として抜擢して、しかも彼女の「本編終了後」を描くと言う考えは普通出てこないし、それがこんな傑作となっているの……。

実際の中川夏紀がなにを考えて生きていたのか、これは本当に読んでくれみたいな事しか言えない。善意で動くわけじゃない、打算や惰性で動いていたとして……みたいな事をずっと考えてしまうし、物語はちゃんとあなたのそう言う気持ちに決着をつけるから。響けシリーズを読んで、この作品にたどり着いてくれ、みんな。

最悪の気付き「僕の部屋、もしかして本が一冊もなければ整理終わってるんじゃない」に深いダメージを受けた。でもこれは「なにも考えず本をぶちこむコンテナ」を設置すれば、ほとんどの片付けはそれで終わると言う事でもあるな……頑張る……。

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